現代人の私たちが「風邪」というとき思い浮かぶのは、せき、くしゃみ、鼻づまり、などの目にみえる「症状」であることが多い。
一般に、日本人がインドネシア語を勉強するときに、「マスッ・アンギン(masuk angin)とは日本語で”風邪をひく” である」と習う。しかし、そのニュアンスは、現代人が使う日本語の「風邪をひいた」とはちょっと違う。
私がそれに気づいたのは、インドネシアに住み始めて2年ほど経ってから。日本人留学生のHさんが言った「マコさん、私最近、マスッ・アンギンがわかるようになったんですよ!」がきっかけだった。
そう、マスッ・アンギン masuk angin とは、決して目にみえる症状ではなく、目にはみえない、身体内の「状態」を示す表現だった。マスッ(masuk) は「入る」、アンギン(angin) は、空気や風のこと、つまり、空気や風がからだの中に入っている状態を、インドネシアの人々は「マスッ・アンギン」と言っているようなのだ。Hさんが「わかるようになった!」と言ったのもこの「状態」のこと。なるほど!それからほどなくして、私も「マスッ・アンギン」がどんな「状態」なのか、文字通り「からだで」わかるようになった。
普通、インドネシア人が「ああ、からだにアンギン(空気、風)が入っちゃった」というとき、痛みや、目にみえる(他の人からもわかる)症状としてあらわれるのは、身体の節々が痛い・胃にガスがたまっていて痛い感じがする・ゲップやおならが頻繁に出る、などだ。ゲップやおならが一番わかり易い。身体に、健常時には無いはずの「悪い気体」が入っているため、それらが外に出ようとする、ということらしい。冷たい風に当たったり、冷たい石の床に長時間座っていたりすると、そのような「邪気」が入ってしまう。
あくまでも自覚、感覚の問題なので、説明するのは難しいが、私が感じたのもまさにそれ。
何故か、日本ではそれまで自覚したことのなかった身体の状態だった。なんとなく、胃に気体がたまっている感じ、放っておけば、せきや鼻水がでてきて「風邪」になりそう、でもまだそれには至らない。ああ、これが マスッ・アンギン状態 かな?と感じた。
日本語の「風邪」も、字のごとく、本来はそんな感覚が語源かも。しかし、多くの現代日本人はそんなふうに「風邪」を感じてはいないだろう。
この「邪気」の感覚を自分で味わいたいという方、
インドネシアの地へ飛んで、冷たい夜風に当たれば「邪気」が入ってくるかもしれません・・・。